私が妹のことで警察に相談に行ったのは、彼女が三日間連続で同じ服を着ていたからだ。
「それだけで届け出るのは早すぎるのではないですか」と警官は言った。私は頭を振った。「あなたは理解していない。妹は絶対に同じ服を二日続けて着ない人なんです」
このささいな変化は、恐ろしい出来事の始まりに過ぎなかった。
妹の夏美は昔から几帳面な性格で、毎朝着る服をカレンダーに記入していた。そんな彼女が突然、同じ白いワンピースを三日間着続けるなど、あり得なかった。
「夏美、どうしたの?」と聞いても、彼女は「何が?」と素っ気なく答えるだけ。目を見ると、どこか虚ろだった。
警察が動いてくれないので、私は自分で調査を始めた。夏美の行動を追跡すると、毎晩、彼女は街はずれの古い工場跡に向かっていることがわかった。四日目の夜、私は彼女を尾行した。
工場の中では十数人の人々が円陣を組んでいた。全員が虚ろな表情で、身体をゆっくりと揺らしている。中央には黒い棒状の物体が立っていた。それは、どこかから光を吸収しているように見えた。
恐怖を感じた私は、そっと引き返した。翌朝、夏美に何も言わず、彼女の部屋を調べた。白いワンピースが五着、ハンガーにかかっていた。「全く同じ服を五着も…」と思ったが、よく見ると違和感があった。
服に触れると、指がわずかに沈み込んだ。まるで服の内側に何もない空間があるかのように。そして、私は恐ろしいことに気づいた。これらは服ではなく、皮膚だった。
震える手で「夏美」に電話すると、彼女は意外にも冷静だった。「見つけちゃったんだ。仕方ないね。今から説明するから、工場に来て」
混乱しながらも、私は工場へ向かった。中に入ると、昨夜見た黒い棒状の物体が、今は人型に変形していた。そして周囲には、人の皮が床に落ちていた。
「これが私たちの本当の姿なの」
振り返ると、「夏美」が立っていた。彼女はゆっくりと自分の顔に手をかけ、皮を剥がし始めた。その下には、漆黒の物質でできた顔があった。目も鼻も口もなく、ただ暗闇を吸収するような黒さだけがあった。
「人間の皮は乾燥するの。定期的に交換が必要なのよ」
恐怖で動けない私の前で、「夏美」は続けた。「あなたも仲間になれば? この身体の素晴らしさを分かち合いましょう」
私は逃げようとしたが、足が動かなかった。見ると、床から黒い液体が湧き出し、私の足を覆い始めていた。
「私たちは空洞人間。内側は空っぽだけど、どんな形にもなれる。あなたの皮も、もらうわね」
黒い液体が私の体を覆い始めたとき、激痛が走った。皮膚が内側から引き剥がされていくような感覚。意識が遠のく中、最後に見たのは、床に落ちた私自身の顔だった。
気づくと、私は自分のアパートにいた。悪夢だったのかと思ったが、鏡を見ると、顔に違和感があった。表情を作ろうとしても、筋肉が思い通りに動かない。皮膚を指で摘まむと、中に何も入っていないかのように、簡単に伸びた。
恐怖に駆られて部屋を飛び出すと、廊下で隣人とぶつかった。「あ、すみません」と彼は言ったが、その声は妙に空洞的だった。彼の瞳を覗き込むと、その奥に深い闇を見た気がした。
今、この文章を書いている私の正体が何なのか、もはや確信が持てない。窓の外を見ると、多くの人々が行き交っている。彼らはみな、完璧に人間らしく見える。
だが、もし彼らの皮膚の下に何もなかったら? もし、あなたの隣にいる人の内側が、漆黒の空洞だったら?
明日、私は新しい「皮」を着ることになる。あなたの皮かもしれない。