【怖い話】時計塔の罰

私の町の郊外にある「永遠遊園地」は、創立百周年を迎えた老舗の遊園地だった。その中心には巨大な時計塔があり、一時間ごとに鐘が鳴り、からくり人形が踊る仕掛けになっていた。

十六歳の夏、私たち五人は肝試しのつもりで閉園後の遊園地に忍び込んだ。最後の客が帰った後、フェンスを乗り越え、無人の遊園地へと足を踏み入れた。真っ暗な園内で懐中電灯を片手に探検する気分は、まるで別世界に迷い込んだようだった。

「時計塔に登ろうぜ」リーダー格の健太が提案した。

伝説によれば、時計塔の最上階から町を見下ろすと幸運が訪れるという。もちろん迷信だと思っていた。

塔の入口は開いていて、私たちは螺旋階段を登り始めた。途中、壁には無数の時計が掛けられていた。不思議なことに、それぞれの時計は違う時間を示していた。

「なんだこれ」健太が呟いた。「一つも合ってる時計がない」

最上階に着くと、そこには巨大な歯車や振り子が複雑に組み合わさった機械室があった。天井には七つの大きな鐘が吊るされ、壁には十二体のからくり人形が並んでいた。人形はどれも人間大で、衣装は色あせていたが、驚くほどリアルだった。

「これが毎時間踊るやつか」と美咲が言った。

「じゃあ、記念写真でも撮るか」健太がスマホを取り出した。

その時、下から足音が聞こえた。警備員だろうか。私たちは隠れる場所を探したが、機械室には隠れられるような場所はなかった。

「時計の中だ!」健太が指さすと、巨大な時計の背面に扉があった。

私たちは急いで中に入り、扉を閉めた。狭い空間で五人が身を寄せ合い、息を殺した。外から足音が近づいてきた。

そして突然、機械が動き始めた。歯車が回転し、振り子が揺れた。私たちは閉じ込められた時計の中で、恐怖に震えていた。

午前零時を告げる鐘が鳴り始めた。一つ、二つ…十二の鐘の音が響き渡るなか、からくり人形が動き出す音が聞こえた。

「誰かいるぞ」健太が小声で言った。「覗いてみる」

彼は少し扉を開けて外を覗いた。そして凍りついたように動かなくなった。

「健太?」美咲が呼びかけたが、返事はなかった。

私も扉の隙間から覗いてみた。そして目にしたものに息が止まった。

機械室には十二体のからくり人形が輪になって踊っていた。しかし、それは私たちが最初に見た人形ではなかった。人形の顔は全て、かつて遊園地で行方不明になった人々の顔だった。私は新聞で見たことがある顔を何人も認識した。

そして輪の中心には、健太が立っていた。彼の動きはぎこちなく、まるで糸で操られているかのようだった。彼の目は虚ろで、表情は凍りついていた。

恐怖で声も出ない私たちを尻目に、健太は人形たちと一緒に踊り始めた。そして彼の皮膚が、少しずつ木製の質感に変わっていくのが見えた。

私たちは扉から飛び出し、階段を駆け下りた。美咲が振り返ると、健太と十二体の人形が階段の上から私たちを見下ろしていた。そのうちの一体が口を開いた。

「盗み見た者には罰を与える」古びた声が響いた。「時を盗んだ者は、時の奴隷となる」

私たちは遊園地から逃げ出した。翌日、健太の失踪が報告された。警察は遊園地を捜索したが、彼を見つけることはできなかった。

その事件から十年が経った。「永遠遊園地」は今も変わらず営業を続けている。時計塔からは、一時間ごとに十三体の人形が踊る姿が見られる。

私は今でも、あの夜に見た光景を忘れることができない。そして、時計塔の鐘が鳴るたびに、健太の声が聞こえる気がする。

「助けて」と。

最近、美咲が「もう一度、時計塔に行ってみよう」と言い出した。彼女の目は妙に輝いていて、動きがどこかぎこちなかった。

そして私は気づいた。彼女の腕に、小さな歯車の模様が浮かび上がっていることに。

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