私の祖父は時計技師だった。彼の工房には様々な時計やオルゴールが並び、私は子供の頃からその精密な機械の世界に魅了されていた。
祖父の死後、両親は彼の工房を片付けることにした。そこで見つかったのは、未完成のオルゴールだった。八角形の漆黒の箱に金の装飾が施され、中には歯車と針金が複雑に組み合わさっていた。蓋の裏には「時を刻むもの、時を食らうもの」と刻まれていた。
「これを完成させてみたら?」父は言った。「お前はいつも祖父の仕事に興味があったじゃないか」
その言葉に促され、私はオルゴールの修復を始めた。祖父の残した設計図を頼りに、欠けた歯車を作り、弦を張り直した。作業は困難を極めたが、一ヶ月後、ついにオルゴールは完成した。
初めて鍵を巻いた時、奇妙なことが起きた。音色は美しかったが、どこか現実離れした響きがあった。まるで水中で聞くような、あるいは遠い記憶から呼び起こされるような音色。そして不思議なことに、曲が終わっても余韻が残り続けた。
その夜、私は夢を見た。見知らぬ場所で、見知らぬ人々が踊っている。彼らの動きは不自然で、まるで歯車で動く人形のようだった。そして中央に、あのオルゴールが置かれていた。
翌朝、目覚めると体の節々が痛んだ。一晩中踊り続けたような疲労感。そして鏡を見ると、顔に微かな変化があった。顔の輪郭がより角張り、皮膚がより硬質に見える。気のせいだと思ったが、日が経つにつれ、その変化は明らかになっていった。
オルゴールを巻くたびに、私は同じ夢を見た。そして毎朝、体の一部がより機械的になっていく。指の関節が硬くなり、動きがぎこちなくなり、肌には微かな模様が浮かび上がった。まるで精巧な木目のような。
不安になった私は祖父の日記を探し出した。そこには驚くべき記述があった。
「私は時を操るオルゴールを作り上げた。しかし、それは代償を要求する。オルゴールが音を奏でると、私たちの『時』が吸い取られる。人間の時間が機械の永続性に変換されるのだ」
恐ろしくなった私はオルゴールを壊そうとした。しかし、ハンマーを振り上げた瞬間、私の体が勝手に動いた。私はオルゴールを守るように抱きしめ、再び鍵を巻いていた。
その夜の夢はこれまでと違っていた。踊る人々の中に、祖父の姿があった。しかし彼は人間ではなく、精巧な人形になっていた。私に気づいた祖父は悲しそうな表情で語りかけた。
「君も仲間になるんだ。私たちは皆、時の囚人だ」
目が覚めると、私の皮膚は完全に木質化していた。関節は金属の軸で繋がれ、動くたびに微かな音を立てる。恐怖で叫ぼうとしたが、声は出ず、代わりに胸の中から歯車の回る音が聞こえた。
私は理解した。オルゴールは私の時間を吸い取り、私自身をオルゴールの一部に変えつつあるのだと。しかし最も恐ろしいのは、それを止めたいと思わなくなっていることだった。
今、私の体はほぼ完全に機械と化している。指先から足先まで、すべての動きが計算された正確さで行われる。感情は薄れ、代わりに永遠の存在としての静謐が私を満たしている。
もう一度だけオルゴールを巻こう。そうすれば変容は完了する。私は永遠の時を刻む歯車の一つとなり、時間の縛りから解放される。
そして次は、私の妹の番だ。彼女は私の変化に気づき、心配している。だから今夜、このオルゴールを彼女の部屋に置いておこう。彼女もきっと、その美しい音色に魅了されるだろう。
時計が時を刻むように、オルゴールは魂を刻む。歯車が回り、針が進むたび、私たちはみな少しずつ永遠に近づいていく。
今、最後の人間らしさが消えゆく。だが恐れることはない。私は永続し、時を超える。そして、このオルゴールの音色は永遠に鳴り続ける。
私たちの中で。